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東京地方裁判所 平成6年(ワ)1664号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  主位的請求

1 被告らは、原告に対し、別紙物件目録二の建物部分を明け渡せ。

2 被告有限会社ローゼンベックは、原告に対し、別紙物件目録三の建物部分を明け渡せ。

二  予備的請求

1 被告らは、原告に対し、平成八年一一月二〇日限り、原告から金二〇〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録二の建物部分を明け渡せ。

2 被告有限会社ローゼンベックは、原告に対し、平成八年一一月二〇日限り、別紙物件目録三の建物部分を明け渡せ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実(一部証拠による認定を含む。)

1 原告は、スーパーマーケット七店舗等を経営する会社である。

被告株式会社栄喜堂(以下「被告栄喜堂」という。)は、パンの製造販売を業とする会社であり、被告有限会社ローゼンベック(以下「被告ローゼンベック」という。)は、「ローゼンベック」というブランドで高級焼き立てパンを販売することを業務目的とする被告栄喜堂の子会社である。

2 原告は、別紙物件目録一の建物(以下「京北ビル」という。)の一部を賃借して、京北スーパー柏店(以下「本件店舗」という。)を営業しているが、昭和四五年一一月二一日、被告栄喜堂との間に、「本件店舗内において被告栄喜堂がパン類の製造販売業務を行う」について契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

被告栄喜堂は、本件契約に基づいて、本件店舗内の別紙物件目録二の建物部分(以下「本件売場部分」という。)において、原告の承諾を得て、昭和四五年一二月一日から現在に至るまで、被告ローゼンベックに「ローゼンベック」というブランド名でパンの販売業務を行わせている。

そして、原告は、昭和五四年一〇月三一日、被告ローゼンベックに対し、別紙物件目録三の建物部分(以下「本件倉庫」という。)を倉庫として使用することを認め、被告ローゼンベックはこれを本件売場部分でのパンの販売のために利用している。

3 本件契約にかかる契約書第一八条(契約期間)には、「この契約期間は昭和四五年一一月二一日より四年間とする。但し期間満了前三ヶ月より一ヶ月前までの原告または被告栄喜堂から解約の申し出がないときはこの契約は同一条件にて期間を一ヶ年として更新されるものとする。その後の満期に際しても同じとする。」との定めがある。

そこで、原告は、被告らに対し、右条項に基づいて、平成五年九月一日到達の書面をもって、更新拒絶の意思表示をした。

二  原告の主張

1 本件契約は、原告が被告栄喜堂に対し本件店舗内でパンの製造販売する業務を委嘱するという業務委嘱契約であり、賃貸借契約ではなく、借家法の適用はない。したがって、契約書第一八条の規定は文言どおりの効力が認められるべきである。以下、その理由を述べる。

(一) 使用の形態

本件売場部分は、閉鎖された独立の区画ではなく、被告らはこれを独占的、排他的に支配していない。

被告らが使用している本件売場部分は、本件店舗の他の部分との間には、何らの仕切りも設けられてなく、人の行き来は自由であり、構造上本件店舗の一部となっている。開店時間や閉店時間、休業日は、原告経営のスーパーマーケットと同じであり、被告らが独自に営業することはできないし、閉店時間中の警備も原告が一括して行っている。

(二) 契約の趣旨

食品衛生法に基づく菓子製造業の営業許可は原告名義で取得しており、営業所の名称も「株式会社京北スーパー(原告)ローゼンベック」と届けられている。

本件売場部分における売上は、毎日原告に納入され、原告の売上として計上される一方、被告栄喜堂に対しては、毎月二回、一定割合の歩合金等を差し引いた残金が原告から仕入代金として支払われている。

このような方法は、デパートやスーパーマーケットが経営損失の負担を回避するために考案した営業形態であり、売上仕入れなどと呼ばれ広く行われているものである。

(三) 借家法の適用がないことの了解

本件契約にかかる契約書第二〇条には、「この契約は特定商品の販売業務の委嘱に関するものであって特定の賃貸借契約ではない」と明示されている。

2 仮に、本件契約に借家法の適用があるとしても、原告の更新拒絶には正当の事由がある。

(一) 原告は、経営する七店舗の内、本件店舗については被告栄喜堂と、千代田店については被告ローゼンベックと業務委嘱契約を結んでいるが、五店舗では、カンパーロという名称で焼き立てパンを製造販売している。ところが、カンパーロの業績が赤字なので、七店舗の中で最も売上の多い本件店舗においてカンパーロの営業をしたいと計画している。

本件契約にかかる契約書第一七条二号には、期間内解約ができる場合の一つとして「甲(原告)の都合によりこの契約による販売業務を取り止めるとき」と定めている。これは、原告の営業方針の変更によりいつでも本件契約の打ち切りがあり得ることを確認したものであり、原告が自ら焼き立てパンの製造販売を手掛けることも営業方針の変更である。

(二) 被告らは、昭和四五年から二三年間も本件売場部分で営業し、既に投下資金を回収し、十分な利益を得てきた。本件契約の使命は終わったというべきである。

(三) 被告栄喜堂は、契約当初の歩合金の割合八パーセントを、昭和四七年に、月間売上二四〇万円までは一〇パーセント、それを超える分について八パーセントと変更しただけで、その後は、原告の再三にわたる引き上げの求めに応じない。このように、被告らは原告に対して非協力的であり、円満な関係にはない。

(四) 本件店舗の入居している京北ビルは、昭和三八年に建築され、現在では老朽化している。所有者の石戸と海老原との間では、一〇年後にビルを建て替えることを計画している。

(五) 原告には、被告らに対し、明渡しを平成八年一一月二〇日まで猶予したうえ、解決金として二〇〇〇万円を支払う用意がある。

3 被告らの権利濫用の主張について

(一) 2のとおり、原告の更新拒絶には、合理的理由がある。

(二) 被告らは、本件契約の終了により、被告ローゼンベックの経営が成り立たなくなると主張する。

しかし、原告が本件契約を締結したのは被告栄喜堂であるから、本件契約の終了により、被告ローゼンベックの経営が困難になっても、それは被告らの間の事情であって、原告には何らの責任もない。被告栄喜堂の業績に影響を受けることは当然であろうが、被告栄喜堂は年商四〇億円規模の会社であり、これによって経営が成り立たなくなるわけではない。

三  被告らの主張

1 本件契約の実質は、借家法の適用を受ける賃貸借契約である。したがって、本件契約にかかる契約書第一八条の規定は効力を有しない。

(一) 店舗の場所の特定

本件売場部分は、独立の店舗の形状を保っており、ドアのない出入り口(開口部の幅約二メートル)を通って、原告の経営するスーパーマーケットと行き来できる。内装も原告とは別に被告らが整えてきた。被告らは昭和四五年以来本件売場部分を移動したことはなく、原告が本件店舗を改装して占有面積が縮小したときには、保証金名の敷金の一部返還と業務補償金の支払を受けた。

(二) 敷金及び賃料

保証金名下に、被告栄喜堂は本件契約当初に三六〇万円を、被告ローゼンベックは本件倉庫を借り受けたときに一〇〇万円を支払った。これは敷金と評価すべきである。

原告は、売上総額の中から定まった率による歩合金を取得し、売上が定まった額に達しないときは、最低保証金と称する金員を受け取る。これは、最低保証家賃と売上に応じた歩合家賃の合体したものである。

(三) 原材料や仕入先の選択、製造方法、陳列商品の内容、値段、人員の採用、店舗の内装等について、原告は全く介入することなく、被告らの自由な判断で行っている。被告らは、歩合金等を差し引き返還を受けた金員の中から、原材料費、人件費、広告宣伝費、その他の経費を支払い、残りが利益となる。被告らは赤字になる危険を含んでいるが、原告は経営の危険を負担することはない。原告は業務の主体とは言えず、本件契約は業務委嘱契約ではない。

2 原告の更新拒絶には、正当の事由がない。

(一) 本件売場部分における営業は、売上額が年間一億二六六六万一〇〇〇円に上り、被告らの経営戦略上極めて重要な地位を占める。関係する従業員も多数であり、わずか二〇〇〇万円の提供で、この売上と利益を奪うことは許されない。

(二) 本件の歩合家賃は、わずか一〇坪で年間八〇〇万円から一〇〇〇万円の家賃を支払っているのであるから、本件売場部分の面積と売上高から言えば、決して安いということはない。

(三) 立替えの必要性は否認する。

なお、被告らは、新たな建物への入居が認められれば、建物の建替えには相応の協力をする旨申し出ている。

3 権利濫用

原告が、原告経営の他のスーパーマーケット店舗において焼き立てパンの製造販売を始めたことから、被告らを本件売場部分から追い出し、利益を奪取しようとするものである。利益の上がっている本件売場部分を失うことになっては、被告ローゼンベックは存立の危機に陥り、被告栄喜堂も多大な影響を受ける。長年かけて、京北ビルの維持、地域の開発の一翼を担ってきたテナントの努力による成果を、背信的事由もないにもかかわらず、追い出し奪うことは許されない。

四  争点

1 本件契約に借家法六条、一条の二(借家借地法附則一二条)の適用があるか。

2 原告の更新拒絶には正当の事由があるか。

3 原告の明渡請求は権利の濫用か。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1 《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、集客力が期待できるとの観点から、被告栄喜堂の当時としては珍しかった焼き立てパンの製造技術に着目し、昭和四五年本件店舗を改装した機会に、被告栄喜堂に対し、本件店舗への出店を持ち掛けた。被告栄喜堂においても、「ローゼンベック」というブランド名で高級焼き立てパンの製造販売をし、直営店舗の経営やフランチャイズの展開を担当する社内部門を別会社方式で拡大発展させる方針であったことから、原告からの誘いに応じることとし、両者は昭和四五年一一月二一日に本件契約を締結した。

被告栄喜堂は、昭和四五年一二月一日、従来「有限会社みどりパン」という名称であった子会社を「有限会社ローゼンベック」と商号変更し、人的物的陣容も整え、ローゼンベック部門を担当させることとした。原告も、この被告ローゼンベックが本件契約に基づき原告経営のスーパーマーケットの本件店舗内に設けられたローゼンベックの店舗の具体的運営にあたること自体は承認している。

当初原告には、本件店舗内で自らパンを販売するという計画はなく、原告と被告らとの関係は円滑に推移し、原告の当時の代表者石戸孝行は、「被告栄喜堂が自ら嫌になって出て行くまでは、ずっといてよい。」などと発言したりもしていた。

被告ローゼンベックは、昭和四五年以来現在に至るまで、本件店舗内の別紙図面一のイロハニイを順次直線で結んだ線で囲まれた部分約三六・一九平方メートル(昭和四七年に一坪縮小された。)の場所で、パンを焼くとともに、「ローゼンベック」ブランドで焼き立てパンを販売している。

(二) パンを販売するために必要な食品営業許可は、原告の指示により、原告名義で取得されてはいるが、店舗図面を作成し、保健所と打合せ、許可申請書を提出し、店舗工事終了後の検査を受けるなど実際の手続は全て被告ローゼンベックが行った。

そして、被告ローゼンベックは、内装工事費を負担し、他のローゼンベックチェーンの店舗との統一感を持つように留意して、店舗のレイアウトや内装を決定し、発注した。パンを焼く所に設置する機材も購入した。また、その後の改装、修理、模様換えの費用も被告ローゼンベックが負担している。

さらに、被告ローゼンベックは、京北ビルの改装工事や給排水、冷房換気工事に際しては、本件売場部分の配管配線設備工事費の他、改築負担金を支払い、商店街のアーケードやカラー舗装の費用について本件売場部分の間口に応じた負担をするなどしている。

(三) 原告が経営するスーパーマーケットの各レジスターは配線でつながり、コンピューターで集計処理される仕組みとなっているが、本件売場部分で使用されているレジスターは、被告ローゼンベックが購入したもので、原告が直接管理することはできない。本件売場部分でのパンの売上金については、被告ローゼンベックの従業員が、毎日の営業終了後に、レジスターから一日の売上の集計を打ち出して、独自に作成した清算表とともに現金を原告へ渡している。釣り銭は、毎朝原告が用意することとなっている。

原告は、売上額から歩合金と電気ガス水道代、空調費、倉庫料、消費税その他の費用を差し引いた精算金を、毎月二五日と一〇日の二回に分けて被告ローゼンベックの銀行口座に振り込む。歩合金の割合は、売上金二四〇万円までは一〇パーセント、それを超える額は八パーセント、月により最低保証額が三〇万円あるいは四〇万円と定められている。

原告の経理上の処理としては、本件売場部分での売上をそのまま原告の売上として計上し、歩合金やその他の諸費用を差し引いた残額を仕入として計上している。

(四) 被告ローゼンベックは、仕入れや商品の構成等を独自に決定している。そこで勤務する販売員やパンを焼く作業員も、被告ローゼンベックが雇用し、指揮監督し、技術指導を行っている。販売員はローゼンベックの制服を着用し、レシート伝票や包装もローゼンベックという表示のみで、原告経営のスーパーマーケットの名称は記載されていない。バーゲンセールの実施や宣伝用のちらし、新聞の折り込み広告の配付等も、通常被告ローゼンベック独自で行っている。

(五) 本件売場部分は、本件店舗内の別紙図面一のイロハニイを順次直線で結んだ線で囲まれた部分であり、スーパーマーケットの入口とは別に、直接公道から出入りできる独自の入口を持っている。スーパーマーケットの他の売り場とは扉等はなく自由に行き来できるが、一応独立した区画となっており、床や壁の仕様が異なり、天井にはシャンデリアを備え雰囲気も異なる。本件売場部分からスーパーマーケット側に出た場合でも、スーパーマーケットのレジを通ることなく外に出られる構造となっている。もちろん、パンを焼く場所は、本件売場部分の販売店舗部分とも仕切られ独立した作業所となっている。

営業時間や休業日については、本件売場部分もスーパーマーケットも同一である。もっとも、被告ローゼンベックは昭和五〇年から昭和五三年までの間、原告の承諾を得て、スーパーマーケットの開店時間帯よりも長く開店していたことがある。

(六) 昭和四七年に京北ビルの改装工事が行われ、工事に伴って、被告ローゼンベックが使用している本件売場部分が約一坪縮小することとなった。その際、原告は、被告栄喜堂に対し、保証金三六〇万円の内六〇万円を返還したうえ、原告の当時の代表者で、京北ビルの所有者でもあった石戸孝行は、被告栄喜堂に対し、機械設備の交換、店舗外装仕上げ工事等に要する費用、休業補償費等として二五〇万円を支払ったことがある。

逆に、昭和五四年に京北ビルの一部新築、改修工事が行われ、被告ローゼンベックが本件倉庫の使用が認められた際には、被告ローゼンベックは、原告に対し、保証金として一〇〇万円を追加して支払ったことがある。

2 以上認定したとおり、被告らは、本件店舗の中において原告の経営するスーパーマーケット部分とは明瞭に区画されている本件売場部分において、昭和四五年から現在に至るまでの長年の間、場所を移動することもなく、内装工事費や設備機材費等全て自己負担のうえ、独自の経営判断と計算において、自ら開発した焼き立てパンの製造販売技術を用いて、営業を行ってきたものである。

他方、原告は、被告ローゼンベックから一旦売上金全額の入金を受け、経理上は全額売上げとして計上したうえで、売上金の一定割合の歩合金や諸費用を控除した残額を被告ローゼンベックへ支払う方式により、右歩合金等を取得するものであるが、原告は、本件売場部分での営業自体には関与していないばかりか、内装工事費や設備費用等すら負担することもなく、まさに本件売場部分を提供することの対価として、保証金や歩合金を取得しているものである。

したがって、本件契約は、本件売場部分の使用関係に関する限り賃貸借に関する法の適用を受けるべきものと解するのが相当であって、その使用関係の終了については被告らは借家法の規定による保護を受けるべきものというべきである。

なお、本件契約にかかる契約書第二〇条には、「この契約は特定商品の販売業務の委嘱に関するものであって特定の賃貸借契約ではないから乙(被告栄喜堂)は契約の終了にあたって損害金立退料補償等如何なる名目を問わず甲(原告)に対し金銭その他如何なる請求もすることはできない」と規定されている。しかし、これは、右文言自体から明らかなように、契約終了の際に被告栄喜堂から金銭的請求をすることができないことを確認することに主眼のある条項であるばかりか、借家法六条が強行規定であることから考えても、本件契約の実態に則して検討した右判断を左右するものではない。

二  争点2について

1 《証拠略》によれば、原告は、本件店舗の他のスーパーマーケット店舗において、カンパーロという名称で焼き立てパンを製造販売していること、ところが、カンパーロの業績が赤字なので、七店舗の中でも最も売上の多い本件店舗においてカンパーロの営業をしたいと計画していること、以上の事実が認められる。

2 他方、《証拠略》によれば、被告ローゼンベックは、ローゼンベックの名称で本件売場部分を含めて六店舗を営業しているが、本件売場部分の売上げは平成五年一〇月期で一億二〇六〇万円を計上し、他の五店舗に比較して群を抜いて多額であり、本件売場部分なしには被告ローゼンベックの経営は立ち行かないこと、そして、被告栄喜堂は、被告ローゼンベックから、パンやその原材料の仕入れを受けたり、管理費を受け取ったりして利益を計上しているほか、両者は親会社と子会社との関係にあり、ローゼンベックブランドが頓挫する事態になれば、被告栄喜堂も深刻な影響を受けざるを得ない立場であること、以上の事実が認められる。

3 《証拠略》によれば、昭和四五年一一月二一日締結の当初の契約では、歩合金の割合は八パーセントと定められていたこと、昭和四七年五月二四日に、月間売上二四〇万円までは一〇パーセント、それを超える分について八パーセントと変更する旨合意されたこと、その後、歩合については改定されていないこと、以上の事実が認められる。

原告は、昭和四七年以来歩合金の割合が据え置かれたことを論難するが、被告ローゼンベックの経営努力による売上げの上昇に応じて原告の取得金額自体は上昇し、現在では年間八〇〇万円から一〇〇〇万円となっているのであるから、本件売場部分の面積が約一二坪に過ぎないこと、被告ローゼンベックが内装工事費や設備費用一切の他にアーケード設置費用、カラー舗装費用、京北ビル修理費用、電気・ガス・水道代等、冷暖房工事費等の諸費用を負担していることなどに照らすと、現行の歩合金の割合が不合理であるとまで直ちに断ずることはできない。

4 《証拠略》によれば、京北ビルは昭和三八年に建築され、現在では相当老朽化し、所有者の石戸と海老原の間では一〇年後にはビルを建て替えることを計画していることが認められる。

しかし、この点については、被告らは、新たな建物への入居が認められるならば、建物の建替えには相応の協力をする意向を表明している。

5 原告は、本件契約にかかる契約書第一七条二号には、期間内解約ができる場合の一つとして「甲(原告)の都合によりこの契約による販売業務を取り止めるとき」との規定があり、その趣旨は、原告の営業方針の変更によりいつでも本件契約の打ち切りがあり得ることを確認したものであると主張する。

しかしながら、一で検討したとおり、本件売場部分の使用関係の終了については被告らは借家法の規定による保護を受けるべきものというべきであるから、右規定に原告主張のような効力を認めることはできない。

6 以上検討したとおり、原告においても、本件売場部分を自ら使用する一応の必要性は認められるものの、被告らにおいても右2のような事情が認められるのであるから、二〇〇〇万円の解決金の提供と平成八年一一月二〇日までの期限の猶予があったとしても、なお、原告の更新拒絶に正当事由を認めることができない。

三  結論

以上のとおりであるから、原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判官 生島弘康)

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